宝くじの話になると、必ず出てくる一文があります。「期待値は半分。買えば買うほど損をする」。
これは正しいです。あとで実際のデータで計算しますが、1枚300円に対して戻ってくる平均は約150円。還元率はちょうど50%程度です。数字としては疑いようがありません。
それでも、多くの人がこう思います。「そんなことは知ってる。でも、だから何なんだ」と。
この記事では、宝くじの公表データをそのまま使って期待値を計算し、さらに10万人が同じだけ買ったらどうなるかを実際に引いてみました。そして最後に、ひとつ大事なことを書きます。「期待値が半分だから買うな」という説得は、実は論点がずれています。あなたが買う理由は、はじめから期待値の話ではないからです。
🎫 1万人ぶんの宝くじを実際に引いてみる(登録不要・ブラウザで完結)議論の前に数字を出します。年末ジャンボの公表された等級・当せん金・本数をそのまま使って、10万人が1人10枚(3,000円ぶん)買うという試行を回しました。バラの場合の結果がこれです。
| 10枚(3,000円)買った10万人 | 実測 |
|---|---|
| 戻ってきた金額の平均 | 931円 |
| 戻ってきた金額の中央値 | 300円 |
| 1円も戻らなかった人 | 30.4% |
| 3,000円より多く戻った人(元が取れた人) | 8.9% |
まず目を引くのは中央値300円のほうです。3,000円払って、真ん中の人の手元に戻るのは300円。ちょうど1枚ぶんです。そして3人に1人は1円も戻りません。
そして平均の931円ですら、実際には誰も体験していません。当せん金は300円・3,000円・1万円…と飛び飛びなので、「931円戻ってきた人」はそもそも存在しないからです。
理論値のほうも計算しました。1ユニット2,000万枚あたりの当せん金の合計は29億9,990万円。2,000万で割ると、1枚の期待値は149.995円。1枚300円なので還元率は約50.0%です。冒頭の「半分」は正確でした。
問題は、その150円の中身です。等級ごとに「期待値のうち何円ぶんを担当しているか」を分けると、こうなります。
| 等級 | 当せん金 | 1ユニット2,000万枚あたりの本数 |
|---|---|---|
| 1等 | 7億円 | 1本 |
| 1等の前後賞 | 1億5,000万円 | 2本 |
| 2等 | 1億円 | 1本 |
| 3等 | 1,000万円 | 4本 |
| 4等 | 100万円 | 40本 |
| 5等 | 1万円 | 6万本 |
| 6等 | 3,000円 | 20万本 |
| 7等(末等) | 300円 | 200万本 |
上の3行、1等・前後賞・2等を合わせて4本。2,000万枚のうちのたった4本です。ところがこの4本だけで、期待値150円のうち36.7%を占めています。
つまり期待値150円というのは、「150円ぶん戻ってくる」という意味ではありません。2,000万分の1を引いた誰かの7億円を、2,000万人で頭割りした数字です。その4本を引かない大多数にとって、150円という平均は最初から自分の話ではないのです。
実際、何かしら当たる確率は11.3%しかありません。裏を返せば約89%の券は、1円にもなりません。宝くじの本当の姿は「半分戻る」ではなく、「ほとんど戻らない券が大量にあって、ごく一部が巨額を持っていく」です。
🎫 枚数を変えて、分布の形を見てみる面白い現象を見つけたので書いておきます。1万人に10枚ずつ買わせる試行を、独立に20回やりました。20回ぶんの「平均の戻り」がこれです。
892, 871, 1131, 893, 1040, 1015, 920, 1071, 904, 926, 921, 880, 934, 911, 903, 974, 928, 992, 907, 898(単位:円)
871円から1,131円までばらついています。1万人も集めているのに、平均が3割近く動く。その1万人のなかに100万円が当たった人が1人いるかどうかで、変わってしまうからです。一方、同じ20回の中央値は、すべて300円で一致していました。真ん中の人の体験は、まったくブレません。
人数を増やしていくと、平均はちゃんと理論値に近づきます。
| 買った人数(1人10枚) | 1枚あたりの戻り(実測) |
|---|---|
| 1万人 | 90.7円 |
| 10万人 | 92.0円 |
| 100万人 | 149.5円(理論値 149.995円) |
10万人でもまだ92円です。1等が1本も出ていないからです。100万人まで増やしてようやく150円に届きます。期待値というのは、これだけの回数を重ねてはじめて姿を現す数字なのです。
ここまでの数字は、全部「買うな」の材料に見えると思います。でも、そこから「だから買うのは不合理だ」と結論するのは、少し乱暴です。
期待値が損だから避ける、という基準を本気で適用すると、生活のかなりの部分が消えます。保険は期待値では確実に損です(そうでなければ保険会社が潰れます)。それでも入るのは、期待値ではなく「起きたら困る事態を、金で消す」ために買っているからです。
宝くじは、その逆向きの取引です。
保険=小さく確実に払って、大きな不幸を消す
宝くじ=小さく確実に払って、小さな幸運の可能性を買う
どちらも期待値はマイナスで、どちらも「期待値以外のもの」を買っています。保険を合理的と呼んで宝くじだけを不合理と呼ぶなら、その線引きの理由を説明する必要があります。
もうひとつ。300円で買えるものの中に、「7億円が当たるかもしれない状態」は他にありません。貯金でも投資でも、300円は300円のままです。確率は2,000万分の1ですが、買わなければ0です。
だから「期待値が半分だと知らないんですか」という説得は的外れです。たいていの人は知っています。知ったうえで、3,000円ぶんの「もしかしたら」を買っている。それは投資判断ではなく消費です。映画のチケットに期待値を計算しないのと同じことです。
期待値が本当に効いてくるのは、買う枚数が増えたときです。3,000円なら消費ですが、これを毎回3万円、10万円と積み上げていくと、話が変わります。回数が増えるほど結果は平均に近づく——つまり着実に半分を失う方向に収束していくからです。上のシミュレータで枚数を増やしていくと、分布の山が支出線の左側に固まっていく様子が見えます。
まとめると、こうです。宝くじが不合理なのではなく、「宝くじを投資として扱うこと」が不合理なのです。
「自分は前に1万円当たった」「知り合いが10万円当てた」という話は、よく聞きます。そしてそれは、まったく嘘ではありません。
実測でも、10枚買った10万人のうち8.9%は元が取れています。そして1万人ずつの試行を20回回した中では、100万円の当せんが出た回が複数ありました。珍しいことではないのです。
問題は、当たった話だけが人に伝わることです。1円も戻らなかった30.4%の人は、それを誰にも話しません。あなたの周りに流れてくる宝くじの話は、最初から当たった話だけで構成されています。だから「意外と当たるものだ」という体感ができあがります。
これはガチャの「爆死した」「引きが良い」という話とまったく同じ構造です。数十枚から数百枚ていどの個人の経験は、確率を判定する道具としては弱すぎます。10万人ぶんを一気に引いてはじめて、分布の形が見えてきます。
そこで、公表データそのままで1万人ぶんを一気に引けるものを作りました。枚数・連番かバラかを変えると、中央値と0円率がどう動くかがその場で見られます。
🎫 宝くじの期待値シミュレータ(1万人を一気に引きます)※等級・当せん金・本数は、年末ジャンボ(第1082回)・年末ジャンボミニ(第1083回)の発売情報にもとづく公表データです。本数は発売ユニット全体で公表されているため、1ユニットあたりに割り戻して使っています(発売総額が公表値と一致することを検査済み)。シミュレーションは1枚ずつ独立に引く近似で、連番のみ「10枚に1枚は末等」を再現しています。実測値はすべて乱数の種を固定して実際に計算したもので、本文中の人数はそのまま試行人数です。理論値とのずれは試行回数に由来します。このページは宝くじの購入をすすめるものでも、当せんを保証するものでもありません。