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🎫 確率の直感

宝くじは「買えば買うほど損」なのに、なぜ人は買うのか——期待値150円の中身を開けてみた

2026年8月11日

宝くじの話になると、必ず出てくる一文があります。「期待値は半分。買えば買うほど損をする」

これは正しいです。あとで実際のデータで計算しますが、1枚300円に対して戻ってくる平均は約150円。還元率はちょうど50%程度です。数字としては疑いようがありません。

それでも、多くの人がこう思います。「そんなことは知ってる。でも、だから何なんだ」と。

この記事では、宝くじの公表データをそのまま使って期待値を計算し、さらに10万人が同じだけ買ったらどうなるかを実際に引いてみました。そして最後に、ひとつ大事なことを書きます。「期待値が半分だから買うな」という説得は、実は論点がずれています。あなたが買う理由は、はじめから期待値の話ではないからです。

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まず、10万人に同じだけ買わせてみた結果

議論の前に数字を出します。年末ジャンボの公表された等級・当せん金・本数をそのまま使って、10万人が1人10枚(3,000円ぶん)買うという試行を回しました。バラの場合の結果がこれです。

10枚(3,000円)買った10万人実測
戻ってきた金額の平均931円
戻ってきた金額の中央値300円
1円も戻らなかった人30.4%
3,000円より多く戻った人(元が取れた人)8.9%

まず目を引くのは中央値300円のほうです。3,000円払って、真ん中の人の手元に戻るのは300円。ちょうど1枚ぶんです。そして3人に1人は1円も戻りません。

そして平均の931円ですら、実際には誰も体験していません。当せん金は300円・3,000円・1万円…と飛び飛びなので、「931円戻ってきた人」はそもそも存在しないからです。

期待値150円の3分の1は、2,000万枚に4本の当たりが作っている

理論値のほうも計算しました。1ユニット2,000万枚あたりの当せん金の合計は29億9,990万円。2,000万で割ると、1枚の期待値は149.995円。1枚300円なので還元率は約50.0%です。冒頭の「半分」は正確でした。

問題は、その150円の中身です。等級ごとに「期待値のうち何円ぶんを担当しているか」を分けると、こうなります。

等級当せん金1ユニット2,000万枚あたりの本数
1等7億円1本
1等の前後賞1億5,000万円2本
2等1億円1本
3等1,000万円4本
4等100万円40本
5等1万円6万本
6等3,000円20万本
7等(末等)300円200万本

上の3行、1等・前後賞・2等を合わせて4本。2,000万枚のうちのたった4本です。ところがこの4本だけで、期待値150円のうち36.7%を占めています。

つまり期待値150円というのは、「150円ぶん戻ってくる」という意味ではありません。2,000万分の1を引いた誰かの7億円を、2,000万人で頭割りした数字です。その4本を引かない大多数にとって、150円という平均は最初から自分の話ではないのです。

実際、何かしら当たる確率は11.3%しかありません。裏を返せば約89%の券は、1円にもなりません。宝くじの本当の姿は「半分戻る」ではなく、「ほとんど戻らない券が大量にあって、ごく一部が巨額を持っていく」です。

🎫 枚数を変えて、分布の形を見てみる

「平均」という言葉が、いかにあてにならないか

面白い現象を見つけたので書いておきます。1万人に10枚ずつ買わせる試行を、独立に20回やりました。20回ぶんの「平均の戻り」がこれです。

892, 871, 1131, 893, 1040, 1015, 920, 1071, 904, 926, 921, 880, 934, 911, 903, 974, 928, 992, 907, 898(単位:円)

871円から1,131円までばらついています。1万人も集めているのに、平均が3割近く動く。その1万人のなかに100万円が当たった人が1人いるかどうかで、変わってしまうからです。一方、同じ20回の中央値は、すべて300円で一致していました。真ん中の人の体験は、まったくブレません。

人数を増やしていくと、平均はちゃんと理論値に近づきます。

買った人数(1人10枚)1枚あたりの戻り(実測)
1万人90.7円
10万人92.0円
100万人149.5円(理論値 149.995円)

10万人でもまだ92円です。1等が1本も出ていないからです。100万人まで増やしてようやく150円に届きます。期待値というのは、これだけの回数を重ねてはじめて姿を現す数字なのです。

ここからが本題:あなたが買う理由は、期待値の話ではない

ここまでの数字は、全部「買うな」の材料に見えると思います。でも、そこから「だから買うのは不合理だ」と結論するのは、少し乱暴です。

期待値が損だから避ける、という基準を本気で適用すると、生活のかなりの部分が消えます。保険は期待値では確実に損です(そうでなければ保険会社が潰れます)。それでも入るのは、期待値ではなく「起きたら困る事態を、金で消す」ために買っているからです。

宝くじは、その逆向きの取引です。

保険=小さく確実に払って、大きな不幸を消す
宝くじ=小さく確実に払って、小さな幸運の可能性を買う

どちらも期待値はマイナスで、どちらも「期待値以外のもの」を買っています。保険を合理的と呼んで宝くじだけを不合理と呼ぶなら、その線引きの理由を説明する必要があります。

もうひとつ。300円で買えるものの中に、「7億円が当たるかもしれない状態」は他にありません。貯金でも投資でも、300円は300円のままです。確率は2,000万分の1ですが、買わなければ0です。

だから「期待値が半分だと知らないんですか」という説得は的外れです。たいていの人は知っています。知ったうえで、3,000円ぶんの「もしかしたら」を買っている。それは投資判断ではなく消費です。映画のチケットに期待値を計算しないのと同じことです。

期待値が本当に効いてくるのは、買う枚数が増えたときです。3,000円なら消費ですが、これを毎回3万円、10万円と積み上げていくと、話が変わります。回数が増えるほど結果は平均に近づく——つまり着実に半分を失う方向に収束していくからです。上のシミュレータで枚数を増やしていくと、分布の山が支出線の左側に固まっていく様子が見えます。

まとめると、こうです。宝くじが不合理なのではなく、「宝くじを投資として扱うこと」が不合理なのです。

「自分は当たったことがある」という人へ

「自分は前に1万円当たった」「知り合いが10万円当てた」という話は、よく聞きます。そしてそれは、まったく嘘ではありません。

実測でも、10枚買った10万人のうち8.9%は元が取れています。そして1万人ずつの試行を20回回した中では、100万円の当せんが出た回が複数ありました。珍しいことではないのです。

問題は、当たった話だけが人に伝わることです。1円も戻らなかった30.4%の人は、それを誰にも話しません。あなたの周りに流れてくる宝くじの話は、最初から当たった話だけで構成されています。だから「意外と当たるものだ」という体感ができあがります。

これはガチャの「爆死した」「引きが良い」という話とまったく同じ構造です。数十枚から数百枚ていどの個人の経験は、確率を判定する道具としては弱すぎます。10万人ぶんを一気に引いてはじめて、分布の形が見えてきます。

そこで、公表データそのままで1万人ぶんを一気に引けるものを作りました。枚数・連番かバラかを変えると、中央値と0円率がどう動くかがその場で見られます。

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この記事の要点

※等級・当せん金・本数は、年末ジャンボ(第1082回)・年末ジャンボミニ(第1083回)の発売情報にもとづく公表データです。本数は発売ユニット全体で公表されているため、1ユニットあたりに割り戻して使っています(発売総額が公表値と一致することを検査済み)。シミュレーションは1枚ずつ独立に引く近似で、連番のみ「10枚に1枚は末等」を再現しています。実測値はすべて乱数の種を固定して実際に計算したもので、本文中の人数はそのまま試行人数です。理論値とのずれは試行回数に由来します。このページは宝くじの購入をすすめるものでも、当せんを保証するものでもありません。

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