岩手県の北端、青森との県境に近い二戸市(にのへし)。この小さな街に、世界の日本酒シーンで名を知られる蔵があります。「南部美人(なんぶびじん)」。その名の通り「美しい酒」を目指して明治35年(1902年)に創業し、いまや世界数十カ国に輸出される岩手の国際派です。
蔵のある県北地域は、かつて南部藩の領地。「南部の地で、美しく、きれいな酒を」という願いを込めて「南部美人」と名付けられました。派手さより透明感。淡麗ななかにふくらみのある旨みを持たせるのが、この蔵の一貫したスタイルです。
その味を支えるのが、地元・二戸の水と米。特に地元産の酒米「ぎんおとめ」など岩手の米を積極的に使い、「地元の素材で世界に通じる酒を造る」ことにこだわってきました。
南部美人の名を一気に世界へ押し上げたのが、国際的なコンテストでの実績です。世界最大級のワイン品評会IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)のSAKE部門では、2017年に最高賞「チャンピオン・サケ」を受賞。「世界一の日本酒」の称号を岩手にもたらしました。
海外展開の姿勢も先進的で、早くから輸出に取り組み、ユダヤ教の食規定に適合する「コーシャ認証」や、ヴィーガン認証を取得するなど、世界中の誰もが安心して呑める体制を整えています。日本酒の国際化を語るとき、必ず名前が挙がる蔵のひとつです。
南部美人にはもうひとつの発明があります。一般に梅酒は大量の砂糖で甘みをつけますが、南部美人は日本酒づくりの技術を応用し、糖類を一切加えない梅酒を開発しました。米由来の自然な甘みだけで仕上げた梅酒は、すっきりと上品な味わいで、梅酒の常識を変えた一本と言われます。
南部美人は、「地元の米と水で世界と勝負する」を実践してきた蔵です。二戸の風土から生まれた美酒が、ロンドンの品評会で世界一に輝く——地酒の可能性を、これほど雄弁に語る物語はありません。海外の友人に日本酒を贈るなら、まず候補に挙げたい一本です。