いま全国の日本酒ファンの間で「岩手の酒」と言えば、真っ先に名前が挙がるのが「赤武(あかぶ)AKABU」でしょう。モダンで洗練された味わいと、兜をあしらった印象的なラベル。しかしこの酒の背景には、東日本大震災からの再出発という物語があります。
赤武酒造は明治29年(1896年)創業、岩手県沿岸の大槌町で「浜娘(はまむすめ)」という酒を醸してきた小さな蔵でした。2011年3月、東日本大震災の津波により蔵は全壊。百年以上続いた酒づくりは、一度完全に途絶えます。
それでも蔵は歩みを止めませんでした。2013年、内陸の盛岡市に新しい蔵を建てて再建。「復活の酒」として再び「浜娘」を世に送り出します。
再建した蔵で杜氏を任されたのは、当時20代前半だった蔵元の息子・古舘龍之介氏。東京農業大学で醸造を学んだ若者が、新設の蔵で立ち上げた新ブランドが「AKABU」です。
若いチームがゼロから設計した酒は、従来の東北の酒のイメージを軽やかに超えていきました。
全国新酒鑑評会や各種コンテストでの受賞が続き、いまや入手困難な銘柄も少なくありません。
初めての一本なら、まずは定番の「AKABU 純米酒」がおすすめ。赤武のスタイルがいちばん素直に表れた一本で、冷やして呑めばジューシーな旨みがすっと広がります。慣れてきたら純米吟醸や季節限定(NEWBORNなどの搾りたてシリーズ)へ進むと、フレッシュ感の違いが楽しめます。
合わせる料理は、意外にも幅広い。刺身や寿司はもちろん、鶏の唐揚げやクリーム系のパスタのような油分のある料理でも、赤武の酸がきれいに受け止めてくれます。
赤武AKABUは、「若い感性」と「岩手の底力」が出会って生まれた酒です。津波で全てを失った蔵が、盛岡の地で若い杜氏とともに全国区のブランドを打ち立てた——その物語ごと味わえば、グラスの一杯はさらに深くなるはずです。