私が生徒に教えるときは、なるべくhow(どうやるか)だけでなく why(なぜそうするか)まで 説明するようにしています。手順だけ渡したほうが、その場は速いのに、です。
理由は2つあります。
手順だけの説明は、意味のない記号の並びです。 「まずこれを両辺にかけて、次にこれを移項して」。覚えられません。
「なぜ」が入ると、そこに流れが生まれます。 こうしたいからこうする、という筋が通る。ストーリーになる。
そして筋が通ると、感情が発生します。 「なるほど、そういうことか」「うわ、うまいことやるな」。 人間は、感情の乗った話をよく覚えていて、よく思い出せます。 覚えやすく、思い出しやすい。これが1つ目です。
2つ目のほうが本命です。
手順を覚えると、その問題が解けるようになります。 理由まで分かると、その考え方が使える問題が全部解けるようになります。
知識や考え方が増えれば、それが応用につながる。 そして私が本当に上げたいのは、 その子の「頭のレベル」そのものです。
ここはゲームで言ったほうが早いです。
| 勉強でいうと | 効く範囲 | |
|---|---|---|
| ボス対策 | そのテストの範囲だけを一問一答で詰める | そのボスにしか効かない |
| レベル上げ | なぜそうなるかを含めて、考え方を身につける | どの相手にも効く |
私の方針は「まずはレベル上げ」です。 ボスにしか通用しない対策は、ギリギリまでしない。
レベルを上げておけば、別の相手をするときにも効きます。 要領がいい、地頭がいいと言われる状態は、 この積み上げの結果として出てくるものだと私は思っています。
正直に書きます。時間がないという理由があるときは、対策でいいです。
明後日がテストで、まだ範囲の半分が白紙なら、 そこで「なぜ」から積み上げるのは間に合いません。 そういうときは割り切って、出る形を詰めます。
私が言いたいのは順番の話です。 時間がないという理由がない限りは、レベル上げをする。 そして多くの生徒は、 「時間がない」を、時間があるうちから言っています。
念のため書いておくと、これは私の理想です。 現実には範囲も日程も決まっていて、点数はすぐ必要になります。
それでも、今日1問だけでいいので「なぜこの式なのか」を一言で言ってみる。 これはテスト前でもできます。 レベル上げは、まとまった時間がないとできないものではありません。
理由まで分かると応用に届く、と書きました。抽象的なので、具体例を出します。
手順として覚えると:「左から右に移すとき、+は−にする」。 これで一次方程式は解けます。でも、それだけです。
理由まで知ると:移項という操作は存在しません。
やっているのは「両辺から同じ数を引く」だけです。
x + 3 = 7 の両辺から3を引くと x = 7 − 3。
結果として、左の+3が右で−3になって見えるだけです。
これが分かると、次が全部同じ話になります。
手順で覚えた人は、この4つを別々に4回覚えます。 理由で覚えた人は、1回で済みます。これがレベル上げです。
手順として覚えると:「xの係数を半分にして2乗して足して引く」。 やり方は言えるのに、いつ使うのかが分からない状態になります。
理由まで知ると:やりたいのは「グラフの頂点を知ること」です。
y = (x − p)² + q の形にすれば、頂点が (p, q) だと一目で分かる。
そのために式の形を変えているだけです。
目的が分かると、問題文に「頂点」と書いていなくても、 最大・最小を聞かれた瞬間に「じゃあ平方完成だな」と自分で判断できます。 手順しか知らないと、「平方完成しなさい」と書いてある問題しか解けません。
年号として覚えると:「1192年、鎌倉幕府」。 出るのは「何年ですか」という問いだけです。
理由まで知ると:なぜ鎌倉だったのか。 三方を山に囲まれ、残る一方は海。攻めにくい地形だからです。 そして、なぜ京都から離れたのか。朝廷から距離を取るためです。
ここまで知っていると、次のような問いにも届きます。
年号は1問にしか効きません。理由はその周辺全部に効きます。
もう1つ効果があります。思い出せるようになります。
「係数を半分にして2乗する」は、記号の並びです。手がかりがありません。 「頂点を知りたいから形を変える」は話です。 目的 → 困りごと → 解決という筋があります。
人間は、筋の通った話を覚えるのが得意で、記号の並びを覚えるのが苦手です。 だから理由を入れると、思い出すための取っかかりができます。 忘れても、「たしか頂点を知りたかったんだよな」から手順を再構成できる。
今日からできること:
解けた問題を1問選んで、「なぜこのやり方でいいのか」を一言で言ってみてください。
言えなければ、それは手順を覚えているだけです。
そこがレベル上げの、いちばん効く場所です。