日本酒の面白さは、世界でも珍しい「温めて美味しくなる醸造酒」であることです。そして米の旨みを大切にする南部流の岩手の酒は、総じて燗映えします。燗酒というと冬の熱燗を思い浮かべがちですが、実は一年中、季節ごとに合う温度がある。今回は、岩手の銘柄を例にした「季節の燗酒ガイド」をお届けします。
燗には昔からの美しい呼び名があります。細かく覚える必要はなく、目安はこの三つで十分です。
迷ったらぬる燗から。そこを起点に、季節と料理で上下させるのがコツです。
ひと夏熟成した秋の酒「ひやおろし」は、燗との相性が抜群。ぬる燗にすると丸くなった旨みがさらにほどけます。きのこの土瓶蒸しや秋刀魚の塩焼きと合わせれば、岩手の秋の完成形です。
寒さが本番を迎えたら、温度も一段上げましょう。すっきりした本醸造や辛口純米を上燗〜熱燗にすると、キレが増して鍋物の脂を流してくれます。菊の司の姉妹銘柄・七福神が「燗にすると化ける」と以前ご紹介したのは、まさにこの帯。三陸の牡蠣鍋に熱めの燗——冬の岩手でこれに勝る組み合わせはなかなかありません。
春は冷やに戻る季節と思われがちですが、花見の時期の岩手はまだ肌寒い。そこで活きるのが人肌燗です。温めすぎない分、春の酒の穏やかな香りが残り、山菜の天ぷらやおひたしの淡い味を邪魔しません。
意外に思われますが、夏の燗も一興です。冷房で冷えた体に、ぬる燗の純米が染みる。キンキンに冷やした生酒とはまったく別の癒し方で、晩酌の締めの一杯に向いています。
道具は要りません。徳利(なければ耐熱のマグでも)に酒を注ぎ、沸かして火を止めた湯に2〜3分。指で触れて「気持ちいい風呂」くらいがぬる燗の目安です。電子レンジなら短めに温めて一度混ぜると、温度ムラが防げます。
燗酒は「冬の飲み方」ではなく、一年を通じた温度の遊びです。同じ一本が、35℃と50℃でまるで違う顔を見せる。まずは今夜、家にある岩手の酒をぬる燗にするところから始めてみてください。